大血管外科における手術リスクの低減に向けて

大血管外科用手術
ナビゲーション
システム

大血管外科手術における
ナビゲーションシステムとは


ABOUT THIS SYSTEM

大動脈瘤は手術が必要な疾患です。大きく膨らんだ瘤を人工血管に換える治療をします。大動脈に人工血管を繋ぎ換える際に、内蔵や脊髄の血流を維持するため、大動脈の枝やそこから分かれる肋間 動脈の一部を再建してつなぎます。大動脈から分かれる血管は胸部に約20本、腹部に10本あります。そのうち、術前の診断によって、再建する重要な肋間動脈を1〜2本決めます。手術中に開胸して人工心肺使用下に大動脈瘤を切開したとき、その位置が単純な大動脈の解剖学的構造ではないために、その正確な位置の同定が難しいことがあります。このシステムは、術者が人工血管置換術にあたり、手術中に判断するのに必要な情報(治療部位のサイズや形状、位置関 係など)を画像によって確認できるように熟練した医師の手術をサポートするシステムです。

大血管外科用手術ナビゲーション
システムの
治療における役割


大血管外科用手術ナビゲーションシステムは、カーナビのように術前に診断で用いた画像を地図にして、術者が治療をしようとしている位置を確認するために用います。カーナビでは行きたい場所へたどり着くために目的地を設定すると、GPSで自分の車のいる場所が地図上に示され、目的地までの行き方を知ることができます。手術では行きたい場所が目的とする肋間動脈とすると、車にあたるのが手術中の身体を指し示す器具であるポインティングツールと計測器がGPSの働きをします。患者さんの体格はもちろんのこと、大動脈瘤の大きさや形状、血液が多く流れる血管の位置はそれぞれ患者さんによって異なります。そのため、この大血管外科用手術ナビゲーションシステムではカーナビの地図の代わりにご自身の身体の中を示す情報としてCT画像を使います。手術中に身体の中の情報が見える部分は限られていて、全体のうちのどのあたりを見ているのか術者は確認しながら治療を進めます。一般的に、この確認作業は術者が画像を見て、実際の身体に合うように自分の頭の中で対応付けをしますが、このシステムではコンピュータの計算によって行います。術者は治療中に目的とする血管等にうまくたどり着くためにはどうアプローチすればよいか、術者はモニタに表示されるナビゲーションで示される結果を判断材料のひとつにします。

大血管外科用手術ナビゲーション
システムの仕組み


手術ナビゲーションシステムは、(a)計測システム(カーナビでのGPS衛星)、(b)コンピュータ、(c)モニタ、(d)ポインティングツール(カーナビでの車)、(e)ベッドの基準位置になるアンテナから構成されます。

大血管外科手術における

ナビゲーションシステムの利点

手術ナビゲーションシステムは脳神経外科や整形外科では使われていて、その有用性も認められています。この大血管手術用のシステムでは、皮膚を切開する前に身体の中で見える血管の範囲や状態を予測したり、吻合方法をシミュレーションするのに用います。肋間動脈の位置がわかりにくいときに、術者の判断を助ける働きもします。手術ナビゲーションシステムのサポートによって、患者さんはより正確な手術を受けることができ、患者さんにとってよりよい結果をもたらすものと考えています。

大血管外科用手術ナビゲーション
システムの安全性


手術ナビゲーションシステムは基本的には画像を表示する装置です。手術中の身体の位置と画像とを位置合わせするために、滅菌されたツールを用いて計測を行います。ポインティングツール(d)の先端が体内に接触しますが、先端は丸くなっており安全性には十分に配慮されています。使用によって予想される不利益はありません。システムによって示された結果は、術者が注意を払い、術者の判断に用いますが、実際と比べてずれが大きく、術者が使用できないと判断した場合は、使用を中止します。しかし、新システムはそのような事例にも対応できるしくみがあり、安全性と信頼性は一段と向上しています。 したがって、患者さんに直接危害が加わるようなことはありません。

大血管外科用手術ナビゲーション
システムの
発明と共同研究機関


この大血管外科用手術ナビゲーションシステムは、心臓血管外科医の青見茂之医師が東京女子医科大学病院で2004年に、脳外科のナビゲーションの活用を考えたのが始まりです。大動脈外科用として世界初のシステムで、同脳神経外科及び先端生命医科学研究所の伊関洋教授と早稲田大学梅津光生研究室との共同研究で開発されました。胸部大動脈瘤の手術で用いられ、これまでに100例以上の臨床経験があります。特に、難しい解離性大動脈瘤や胸腹部大動脈瘤、マルファン症候群の手術で威力を発揮してきました。2016年から新システムとなり、さらに操作性がよくなっています。現在は、他の病院でも使えるシステム開発を目指しています。